鍼灸研修会
講師:埼玉医科大学総合医療センター 山口智 先生 (医学博士)
「頭痛・顔面神経麻痺に対する鍼治療」について、講義と実技の研修会が開催されました。
以下は講演会にてメモした内容をブログに起こしている備忘録です。
鍼とエビデンス
1997年に発表されたNIHの合意声明書によって手術後の吐き気、嘔吐、歯痛における鍼治療の有効性が認められています。また、薬物中毒、脳血管疾患リハビリ、頭痛、月経痛、テニス肘、線維筋痛、脊柱菅狭窄症、腰痛、手関節症候群、喘息などに鍼治療は補助的に有効性が認められました。
ソース↓
片頭痛・筋緊張型頭痛の治療は首への治療がネックになる!
片頭痛の発生メカニズムに新しい説として大脳皮質拡延性抑制(cortical spreading depression;CSD)があります。
これは、頭痛が後頭葉から起こり側頭部へ、そして三叉神経を介して目にも症状が出てくる機序になります。
片頭痛の治療は大後頭神経支配の筋肉へ鍼を刺すと、大後頭神経と三叉神経はつながっているため後頭部〜側頭部〜目の症状まで治療効果が出るとのことです。
筋緊張型頭痛の場合、主に後頭部の痛みが多いのですが頭を支える僧帽筋などの首と肩の筋肉への治療が主流となります。
まさに首への治療がネックになりますね。
片頭痛の治療
片頭痛の特徴には次のようなものがあります。
- 片側の頭痛
- 脈打つようにズキズキ痛む
- 頭痛が起こる前に稲妻様の光・モザイクのような模様が見える(光に過敏になる)
- 中程度〜重度の頭痛
- 家事などの日常動作で痛みが増悪する
- 頭痛の他に吐き気がする
このような頭痛の症状が4〜72時間継続します。
片頭痛は20〜40代の女性に多い疾患で、男性よりも女性に多い頭痛です。
側頭部・顔面部への刺鍼
- 側頭部(圧痛点・トリガーポイント)
病巣に近いところに横刺します。 - 下関
咬筋上の経穴。骨に当たらないように1.5cm程直刺します。 - 眼窩上切痕
眼球に刺さらないように針先は上向きに5mm刺します。 - 頬車
咬筋上に1cm直刺します。
下関、眼窩上切痕、頬車は三叉神経を狙った選穴になります。
首・肩への置鍼またはパルス
- 天柱
右側を刺す場合、針先は左目に向けて(斜め上方向)刺します。 - 頭板状筋
完骨と風池を底辺とした逆三角形の頂点に取ります。耳鳴りの治療にも有効(内耳の血液循環を改善します)
遠導刺で下肢に置鍼する
足の陽経3本はすべて目から始まっており、遠導刺*1で次の経穴(要穴)を使います。
- 陽陵泉
- 解谿
- 崑崙
筋緊張型頭痛の治療
筋緊張型頭痛の特徴には次のようなものがあります。
- 後頭部の鈍痛がある(脈打つような痛みはなし)
- 我慢できる程度の痛みがある
- 動くと気が紛れて頭痛が気にならない
首・肩への置鍼またはパルス
- 天柱
右側を刺す場合、針先は左目に向けて(斜め上方向)2cm程刺します。 - 肩井
僧帽筋の上部線維。針先は上向きに刺します。 - 肩外兪
圧痛部位に斜刺します。 - 肩甲間部
菱形筋に横刺または斜刺します。 - 肩甲挙筋
第2〜第4頚椎の横突起を狙います。針先は後ろから前へ斜刺45°で刺します。
パルスは僧帽筋に対して電気を流す場合、天柱と肩井をつなぎました。肩甲挙筋に対して電気を流す場合、肩甲挙筋と肩外兪をつなぎました。
顔面神経麻痺
発症早期(麻痺発生から15日まで)の場合
三叉神経を狙って鍼をします。以下の経穴に置鍼して抗炎症作用を促します。
- 翳風
針先は斜め上方(逆側の目の方向)へ向かって刺します。 - 聴会
直刺で1.5cm程刺します。 - 下関
直刺で1.5cm程刺します。
麻痺が中程度から重度の場合
三叉神経は狙わず、表情筋に置鍼もしくはパルスを行います。
顔面上部(三叉神経第1枝)
- 前頭筋
横刺します。 - 瞳子髎
針先は下から上に向かって刺します。
顔面下部(三叉神経第3枝)
- 迎香
鼻唇溝に沿って針先は下から上に向かって刺します。 - 口角
針先は下から上に向かって刺します。
パルスをする場合、顔面上部の2穴と顔面下部の2穴を交互に電気刺激する必要があります。これは、顔面神経麻痺の患者さんは口笛を吹くと同時に目をつぶってしまう共同運動を治療するために交互に刺激します。同時にパルスで表情筋を動かしても効果はないようです。
使用鍼、パルス メモ
- 鍼
セイリン1番(0.16mm)、寸3 - パルス
セイリン 鍼電極低周波治療器 picorina(ピコリナ)
*1:患部から遠く離れたところを治療する方法